先日、川口悠子さんはモスクワの二つの大学で講演会を行いました。その一つ、モスクワ大学ジャーナリズム学部の学生さんから受けたインタビュー内容(川口悠子さん自身が翻訳チェック済)をまとめてお届けします。

あたらえられた時間が短く、一言で答えないといけなかったため、十分に気持ちを伝えきれなかったところ、説明不足のところもあるとのことです。
lecture


interview

(写真は川口悠子さんのFacebookより)


Q:4回転(スロー)はこわくなかったですか? 4回転をやろうと思ったのはなぜ?


ゆうこ:こわかったけれど、すごくやりたかった。子供の頃に好きだった漫画(「愛のアランフェス」)で、日本人ペアが4回転に挑戦していたから、4回転を跳んでみたかったのです。シングルのときも4回転を跳びたかったけれど、自分で跳ぶより誰かに投げてもらうほうが簡単だと思ったので(笑)。

Q:シングルでもペアでもサルコウジャンプがありますが、どちらが難しいですか?
(補足:ソロジャンプのサルコウとスローのサルコウのこと)

ゆうこ:正直にお話しすると、シングル時代、私が一番嫌いなジャンプがサルコウでした。スローのサルコウのほうが簡単。ペアではスロージャンプは2種類あるので、サルコウだけではなく、ループ(スロー)も跳んでいます。苦手なサルコウジャンプはスロージャンプでやったほうが跳びやすいです。

Q:一番好きなプログラムは?

ゆうこ:ユーロ、バンクーバー五輪で滑った「白鳥」です。

Q:「白鳥」のプログラムについて説明してもらえませんか? どんなエレメンツが?

ゆうこ:SPのプログラムです。ジャンプ、ツイスト、リフト、デススパイラル、スピン、ペアスピンが入っています。曲が好きで、気持ちを沸き立たせてくれるんです。私は白鳥を踊るのが大好きです。

Q:引退後、日本に戻らない理由は?

ゆうこ:戻るかどうかは考え中です。ただ、今はロシアのほうが(仕事などの)可能性が多いです。引退したからといって、ロシア国籍を簡単に棄てたくなくて。。。ロシア国籍取得のために多くの人が助けてくれました。なので、(現役が終わったからパスポートはいらないと)安易に放棄することはしたくありません。

(補足:この箇所は、誤解がないようにもう少し説明を加えたかったそうです)

Q:悠子さんは日本とロシアの両国でトレーニングした経験がありますが、トレーニング方法の違いは?

ゆうこ:日本時代の私のコーチはたくさんのロシア(ソ連)のスケーター、コーチを招聘しました。そのため、指導法はロシアのシステムだったので、その後、ロシアで練習するようになったときに問題なく適応できました。

Q:素晴らしい体型を保つ秘訣は?

ゆうこ:ダイエットはしていません。動かないと体が痛くなるので、同じ場所にとどまらず、動いています。

Q:動くというのは、旅行したり?

ゆうこ:いいえ、トレーニングして体を動かします。私は麻薬のように、トレーニングしないでいるということができないのです。トレーニングをしないと、二日目、三日後には不調を感じます。スポーツ選手も、バレリーナも皆、トレーニングする習慣ができています。そのため、(習慣化したトレーニングを)すぐにやめることができないのです。振付師が教えてくれたのですが、やめるには、体を驚かせないように、少しずつやめていかないといけないそうです。

Q:スケート以外の趣味は?

ゆうこ:料理が好きです。

Q:好きな料理は? 得意料理のレシピは?

ゆうこ:いろんなケーキを焼いて、皆の誕生日にプレゼントしたりします。でも、ロシアのレシピではありません(ロシアのケーキではありません)。

Q:一番好きなロシア料理は?

ゆうこ:タマラのご主人(モスクヴィン)が料理上手なんです。今は(高齢のため)作っていませんが、彼が作るボルシチとかコーリュシュカのマリネとか、彼が作るものはなんでもおいしいです。今はタマラの娘のオリガが代わりに全部、料理を担当するようになりました。彼女が作る料理も好きです。

Q:競技生活では多くの怪我に見舞われるものですが、怪我をしたとき、氷上に戻ってくるまでの心境(どう恐怖と戦い、復帰したか)は?

ゆうこ:私はすぐに良い気分になるようにつとめます。どこか痛みがあったり、怪我をしたりすると、なぜか私は逆に、滑りたくなるのです。毎日練習、練習、練習だと、練習したくなくなり、練習できなくなった瞬間、滑りたくなります。その繰り返しです(笑)。

Q:世界選手権のインタビューで、モスクヴィナコーチはボイコワ&コズロフスキーのトレーニングの過程で、ゆうこが手助けしてくれたと話していましたが?

ゆうこ:私とサーシャはお手伝いをしましたが、基本的にタマラが指導しています。ボイコワ&コズロフスキーは良い滑りをしました。よく練習していますし、将来有望だと思います。

Q:なにかエレメンツを指導したり、自分の経験を話したりとかは? 二人のやる気を起こさせたりとか。

ゆうこ:エレメンツを指導することはありません。二人はよく練習して、エレメンツをこなしているので、どうやって試合にのぞむか、心理的なサポートをするくらいです。

Q:大きな試合に向けての特別な準備とかは(モチベーションを高めるには)?

ゆうこ:私たちは自分の好きなことをやっていて、それを試合で見せたいという思いで練習しています。その思い(モチベーション)がなければ、サヨナラ(それまでのこと)です。

Q:ロシアの最初の印象は? 一番ショックだったことは? また気に入ったことは?

ゆうこ:最初の印象は、暗かったことです。12月で、暗くて、暗くて、真っ暗で、何も見えませんでした。ペテルブルグの、昔の空港の中も。そして、皆、黒服でした。でも、私の(最初の)パートナーのママは、バラの花を持って私を出迎えてくれました。日本でそのようなことはないので、うれしかったです。

Q:ロシアについてのステレオタイプ(固定観念、先入観)について。ロシアに来る前に、ロシアについてどんなステレオタイプを持っていましたか? ロシアに来てから、その中の何が本当だ(当たっている)と思いましたか? 

ゆうこ:ウォッカ、クマ。

Q:ロシアに来る前に、ロシアについて(のステレオタイプを)知っていましたか?

ゆうこ:はい。私の父は仕事でよくモスクワに行っていたので、うちにはマトリョーシカとか人形とか、たくさん(ロシアの)お土産がありました。なので、ロシアについての悪い先入観はありません。良い先入観だけです。ロシアのバレエはいいとか、マトリョーシカ……。ウォッカについては……そのとき(幼くて)飲めなかったので、今は飲めますけど(笑)。
いい先入観だけです。

Q:ロシア文化、伝統で何が一番好きですか?

ゆうこ:誕生日などに男性が女性にお花をプレゼントすること。私はとてもお花が好きなので!

Q:日本では2月14日に女性が男性にチョコレートを贈るそうですが、ロシアでは逆です。ロシアで初めて経験したとき、驚いたのでは?

ゆうこ:いいえ。ロシアに来る前、私はアメリカに住んでいました。アメリカでも2月14日は、愛の日で……(男性が女性にプレゼントをする)。女性が男性に贈り物をするのは、日本だけだと思います。日本のチョコレート会社が……(が企んだこと)。なので、(ロシアの2月14日に)驚きませんでした。

Q:ロシア語の勉強は難しかったですか?

ゆうこ:とっても‼️

Q:何語で考えているんですか?

ゆうこ:日本語、ロシア語、英語です。場合によって、ロシア語で考えるほうが楽だったり、日本語で考えるほうが楽だったりします。

Q:日本のもので恋しいのは?

ゆうこ:家、母の料理です。でも、今はそれほど恋しいとは思わなくなりました。二、三週間日本に行っても、二週間もいると、もう十分だと思って、逆にロシアが恋しくなります。今ではお客として日本に来たと感じることもあります。

Q:ロシアにいても、かえられない(日本での)習慣とかありますか?

ゆうこ:今も床で寝ています。あとはトイレです。トイレについてはロシアももうちょっと発展しないと……(笑)。
(補足:使い方にマナーがないということを言いたかったそうです)

Q:悠子さんは二つの大学を卒業しましたが、まったく別の(かけはなれた)専門分野である理由は?

ゆうこ:最初の大学に入ったとき、私にはパートナーがいなくて、日本に帰らなければならなかったのですが、私はタマラのところでトレーニングがしたかったのです。そのときタマラがこう言いました。「スケートがうまくいかなければ、ロシア語、学歴(教育)を得なさい」。タマラはスポーツより学歴が大事だと考えています。スポーツは十年滑るだけです(その後の人生が長い)。タマラのおかげで、私は大学に入学できました。正しい選択だったと思います。大学の学部については、言語学を選ぶべきだったのですが、なぜか国際関係学部を選んでしました。理由は自分でもよくわかりません(笑)。
二つ目の大学は、ちょうどサーシャが大怪我をしたときで、時間ができたので、入りました
……。

Q:自分の(大学のディプロム)専門で仕事をしたことは?

ゆうこ:まだありませんが、やってみたいです。

Q:スポーツのСМИ(マスメディア)について。毎日、見たり、読んだりしているものは?

ゆうこ:以前はテレビのニュース番組をよく見ていましたが、ウクライナとの戦争後、戦争のニュースしか流さなくなり、気分が悪くなりました。うちのテレビは古かったので、それを捨てて、以来、テレビを買いそびれています。

Q:ネットの書き込みを見たりとかは?

ゆうこ:タマラ(モスクヴィナコーチ)は私たちをマスメディアから守ろうとしてくれています。良い情報も、悪い情報も、どちらも私たちの障害となるのです。なので、私はネットに書かれていることを見ません。時々、励まし、お褒めの言葉を見たりしたくなるのですが……。 コーチが「ユーコチカ、ハラショー、ウームニチカ」と言って私を褒めてくれたりしますが、それが居心地悪くて。褒めの言葉よりも叱ってもらえる……注意点を言ってもらえるほうが私にとって気が楽です。


<ゲストからの質問>
Q:最後のプログラムを滑ったとき、自分がスターだと感じましたか?

ゆうこ:私は自分がスターだと思えないのです。そういう気持ちを持つことが私の足りなかったことなのかもしれませんが。。。写真を求められたりするのはうれしいことだけれど、「私はスターです」というようなふるまいは苦手です。

Q:現役時代のライバルは?

ゆうこ:自分自身。自分の演技をして、自分のやるべきことをしたら、あとはジャッジにおまかせです。

Q:ペテルブルグの大学に行き、ペテルブルグに住んでいる理由は?

ゆうこ:タマラがペテルブルグに住んでいるからです。ほかの選択肢はありませんでした。

Q:最初に話があった好きな漫画の題名は?

ゆうこ:「愛のアランフェス」、「アラベスク」。この二つの漫画が私に強い影響を及ぼしました。私は15歳くらいまで(正確には13歳)フィギュアスケートが好きではありませんでした。母がスケートをさせたのであって、私からするとスケートは嫌で嫌でたまらないお稽古事でした。

Q:悠子さんがスケートをはじめたとき、フィギュアスケートは日本で人気競技でしたか?

ゆうこ:いいえ。私もフィギュアスケートのことを知りませんでした。日本でバレエは人気がありましたが、フィギュアスケートはそんなに…。お金のかかるスポーツですし、やっている人も少なかったです。

Q:日本のフィギュア人気の理由は?

ゆうこ:荒川静香(さん)が(五輪)チャンピオンになったからです。国にチャンピオンがいると、皆関心を持つようになります。フィギュアスケートに関心がない人でも、テレビでやっているのを見ると……(フィギュアスケートを知ることになる)。そうやって少しずつフィギュア人気がでてきたのです。

Q:今の日本の選手の演技を見たりしますか?

ゆうこ:いいえ。正直なところ、私はスポーツにあまり興味がありません。フィギュアスケートもほとんど見ませんし…。母と長野の冬季五輪に行ったとき、エレーナ・ベレズナヤの演技を見ました。憧れたスケーターはエレーナが最初で最後。彼女は私の人生を変えるきっかけになりました。

Q:(エレーナは)何が特別だったんですか?

ゆうこ:とっても美しい滑りをするんです‼️ 私はアントンには全く目が行かず、エレーナしか見ていませんでした(笑)。

Q:日本から持ってきたお守りは? 日本のもので、誰かにもらって、身につけているものは?

ゆうこ:そういうものは持っていません。

Q:ロシアの芸術で好きなものは?

ゆうこ:ロシアのバレエが好きです。

Q:一番好きな(バレエの)演目は?

ゆうこ:演目というのではなく、ロシアバレエの動きが好きです。ロシア派のバレエです。腕もきれいだし…(実演)アメリカなどのバレエとは違います。

Q:パートナーと共通語を見いだす(お互いにわかりあう)まで、何が大変でしたか?

ゆうこ:相互理解は大変でした。カルチャーショックです。ですが、私だけではなく、彼も私からカルチャーショックを受けていると思います。それに私はほとんどしゃべらなかったし。でも練習するときは黙っていたほうがいいかもしれません。喋るのは、時間の無駄使い⁈ タマラがよく言っていました。以前は二人とも会話がなかったから黙々と練習してくれたけれども、コミニュケーションをとるようになって練習よりおしゃべりが多くなったと。(悠子補足:会話をちゃんとするようにと私たちに教示したタマラのジョークです)

Q:日本に行くとき、自分が日本人だと感じますか? それとも何パーセントかはロシア人だと感じていますか? 自分の中の変化は?

ゆうこ:それは第三者が私を見て言うことで、自分で言うことはできません。日本語で話すとき「なに? え?」をロシア語の「んぁ? んぁ?」と言ってしまうことがあります。その音は(日本語では)ちょっと失礼な響きなのですが、習慣になってしまって……。そう言うとき、自分がロシア人だなって思います。

Q:お母さんがフィギュアスケートを習わせるまで、何になるのが夢でしたか?

ゆうこ:(質問した日本語学習者に日本語試す)バレリーナ、ピアニスト、お習字の先生、お花屋さん、ケーキ屋さん。じゃあ、訳してみてください(笑)。

Q:どんなとき(どの試合で)、人生最良のとき(瞬間)だと感じましたか?

ゆうこ:この瞬間、瞬間が人生最高のときです。あのときが最良だったから、今は最悪だと? いいえ、そういうことはありません。今が一番、最高です!


Q:どちらか(好きなほうを)、瞬時に答えてください。


おにぎり or スィルニキ


ゆうこ:「?」(悠子補足:質問の意味がはじめわかりませんでした!)

ココーシュニク or キモノ

(補足:ココーシュニクはロシアの民族衣装のかぶりものです)

ゆうこ:キモノ


味噌汁 or ボルシチ


ゆうこ:味噌汁

バガティリ or サムライ
(補足:バガティリはロシアの勇士です)

ゆうこ:………

桜 or ロシアの白樺

ゆうこ:桜!

ありがとうございました。